福島地方裁判所 昭和44年(行ウ)3号 判決 1971年8月09日
福島市宮町二番二四号
原告
東北建材株式会社
右代表者代表取締役
横井隆真
右訴訟代理人弁護士
今井吉之
同市松木町四番一一号
被告
福島税務署長
斎藤正男
右指定代理人仙台法務局訴務部付検事
家藤信正
同
訟務専門職 鈴木昭平
同
福島地方法務局訟務課長
佐々木林太郎
同
仙台国税局大蔵事務官
長谷川政司
菊地広輝
同
福島税務署大蔵事務官
小川謙受
右当事者間の法人税更正処分取消請求事件について、当裁判所は、次のとおり判決する。
主文
原告の本位的請求中、更正処分の取消しを求める部分を却下し、その余の部分および予備的請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一当事者双方の申立て
一、原告訴訟代理人は、本位的申立てとして、「被告が、昭和四三年一〇月三一日付でした原告の昭和四二年四月一日から昭和四三年三月三一日までの事業年度(以下単に「本件事業年度」という)の法人税につき、所得金額、法人税額の更正処分中、所得金額金一、六二三、一〇一円を超える部分ならびに過少申告加算税金三五、八〇〇円の賦課決定処分は、いずれも取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を、予備的申立てとして、「被告が、昭和四四年五月二九日付でした原告の本件事業年度の法人税につき、所得金額、法人税額の再更正処分中、所得金額金一、八〇三、一〇一円を超える部分は、これを取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求めた。
二、被告指定代理人は、原告の本位的申立てにつき、本案前の申立てとして、「原告の本位的申立て中、更正処分の取消しを求める部分を却下する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、本位的申立ておよび予備的申立てに対する本案の申立てとして、「原告の各請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求めた。
第二請求の原因
一、原告は、砂利、玉石等の採取および販売を業とするものであるが、昭和四三年五月三一日、被告に対し本件事業年度の法人税につき、所得金額を金五三六、五四五円とする確定申告書を提出したところ、被告は、昭和四三年一〇月三一日付で所得金額を金五、二二三、一〇一円と、法人税額を金一、六一八、〇〇〇円と更正したうえ過少申告加算税金三五、八〇〇円を賦課する旨の決定をし、その旨を同年一一月一日原告に通知した。
二、そこで、原告は、昭和四三年一一月二九日、被告に対し、右の各処分につき異議の申立てをしたが、昭和四四年二月四日付で右申立てが棄却されたので、同月一七日、仙台国税局長に対し、審査請求をしたところ、同局長は、同年四月三〇日、右請求を棄却する旨の裁決をし、同年五月二二日付で原告に通知した。
三、さらに、被告は、昭和四四年五月二九日付で原告の本件事業年度における所得金額を金五、四〇三、一〇一円と、法人税額を金一、六八一、〇〇〇円と再更正をし、そのころ原告に通知した。原告は、被告の再更正処分について、異議の申立ておよび審査請求をしていないが、これに先立つ更正処分について不服申立手続を経由しているので、審査裁決を経ないでも直ちに訴えを提起しうるものと解すべきである(国税通則法(昭和四五年法律第八号による改正前のもの。以下同じ。)第八七条第一項第四号参照)。
四、しかしながら、原告の本件事業年度における所得金額は金一、六二三、一〇一円(再更正については金一、八〇三、一〇一円)であり、したがつて、被告の前記各処分中、右金額を超える部分は違法である。
五、よつて、原告は、被告に対し、右各処分中所得金額金一、六二三、一〇一円(再更正については金一、八〇三、一〇一円)を超える部分およびこれに伴う過少申告加算税賦課決定処分の取消しを求める。
第三被告の答弁
一、請求原因第一ないし第三項の各事実を認める。
二、同第四項の主張を争う。
第四被告の主張
(本案前の主張)
再更正処分は、当初の更正処分をそのままにして脱漏した部分だけを追加するものではなく、再更正により、当初の更正のときとまつたく同一の、ある納税者のある年度の課税標準およびこれに基づく税額を認定し、一般の納税義務の内容を具体化する処分であるから、再更正処分が行なわれると、当初の更正処分は再更正処分に吸収されて一体的なものとなり、再更正処分だけが争訟の対象となるものと解すべきであり、したがつて、再更正処分がなされた場合、納税義務者が当該年度の所得を争う方法としては、再更正処分の取消しを求めるべきであつて、更正処分の取消しを求める訴えは、その対象を欠き不適法である。本件は再更正処分が行なわれたのであるから、再更正処分の取消しを求めるべきであるところ、原告は、本位的申立てとして更正処分の取消しを求めており、その不適法たるを免れないので却下されるべきである。
(本案についての主張)
一、被告は、原告の本件事業年度の確定申告について調査したところ、原告の所得金額の計算に仕入れ、運搬費の架空計上および売上げの計上もれ等不正計算が認められたほか、役員賞与を損金に計上するなどして所得金額を過少に申告していることが判明したので、これらの金額を、別表(一)記載のとおり、原告の申告所得金額に加算ないし減算し、国税通則法第二四条、第三二条第一項第三号に基づき、所得金額を金五、二二三、一〇一円、法人税額を金一、六一八、〇〇〇円と更正し、過少申告加算税金三五、八〇〇円を賦課決定した。
二、本件更正処分について、被告が、原告の役員報酬を役員賞与と認定し、損金から除算した理由は次のとおりである。
1 法人税法(昭和四三年法律第二二号による改正前のもの。以下同じ。)上、役員に対する報酬とは、役員に対する給与(債務の免除による利益その他の経済的な利益を含む。)のうち、賞与および退職給与以外のものをいい(同法第三四条第二項)、賞与とは、役員または使用人に対する臨時的給与(債務の免除による利益その他の経済的な利益を含む。)のうち、他に定期の給与を受けていない者に対し継続して毎年所定の時期に定額(利益に一定の割合を乗ずる方法により算定されることとなつているものを除く。これは報酬とはならず賞与となる。)を支給する旨の定めに基づいて支給されるものおよび退職給与以外のものをいう(同法第三五条第四項)のである。
したがつて、およそ臨時的給与(債務の免除による利益その他の経済的な利益を含む。)は、前記の除外例を除き、原則として、役員報酬ではなく賞与であり、そして、定期の給与とはあらかじめ定められた給与基準に基づいて毎日、毎週、毎月のように月以下の期間を単位として規則的に反覆または継続して支給される給与をいうものと解すべきである。
そうだとすると、他に定期の給与の支給を受けている者に対し特定の月だけ増額支給した場合の増額分は、あらかじめ定められた支給基準をこえた臨時的な給与であり、それが退職給与であるほかはまさに同法第三五条第四項にいう賞与に該当するものであつて、定款によりあるいは株主総会において定められた役員に対する報酬の限度内の支給であつても、同様である。
2 原告は、昭和四三年三月三一日、役員六名に対し各金六〇万円合計金三六〇万円を支給したが、それは臨時的な給与として支払つたものであるから、いずれも法人税法第三五条第四項に該当する賞与であつて、役員報酬ではない。すなわち、
(一) 原告の役員には、代表取締役横井隆真、取締役横井隆夫、同江口淳、同松本邦夫、同横井晴子および監査役江口箕知子の六名が選任されており、そのうち横井隆真、横井隆夫、横井晴子および江口箕知子の四名は常勤役員であり、江口淳および松本邦夫は非常勤役員であるが、本件事業年度の中途において退職した者はない。
(二) 右の常勤役員四名については、いずれも法人税法上の使用人として職務を有する役員(以下単に「使用人兼務役員」という)に該当しないから(同法第三五条第五項、同法施行令(昭和四五年四月三〇日政令第一〇五号による改正前のもの。以下同じ。)第七一条参照)、これらの役員に対し毎月定期に支給される給与は使用人としての職務に対する報酬ではなく役員報酬であり、したがつて、原告の常勤役員四名に対して支給した各金六〇万円は、毎月定期に支払われる給与とは別に増額した給与として支給したものであり、その支給が退職を原因とするものではないから、法人税法上臨時的な給与というべきである。
(三) 次に、非常勤役員二名に支給した各金六〇万円についても常勤役員に支給した賞与と別意に解さなければならない理由はなく、しかも非常勤役員は、毎月定期に給与の支給を受けていないのであるから、法人税法上、役員報酬と認めるためには継続して毎年所定の時期に定期を支給する旨の定めに基づいて支給されたものであることが必要であり、前記金一二〇万円の支給については右の要件を満たさず、また、退職給与でもない。
(四) 原告は、本件事業年度末に至つて相当利益の生ずることが明らかになつたので、その一部の利益処分につき、役員報酬の増額を企て、これを会社業務の遂行上必要な役員報酬として正当化するため、昭和四二年三月二一日、株主総会等を開催したかのように装つて議事録を作成したものであり、さらに、本件役員報酬の支給態様を見ると、本件事業年度末に手形で支給し、その手形の支払期日は早いもので支給後二か月、最も遅いもので支給後一年一か月であり、しかも、右手形が決済された後、約その半額については、当該役員から直ちに借り入れているのである。以上のように、原告は、本件事業年度後半において利益調整をはかるため経費の架空計上を行ない、事業年度末に至つて役員報酬を増額し、手形で長期にわたつて決済しているが、右の事実に徴すれば、原告の主張する本件役員報酬は、実質的に見て臨時的な給与であり、役員に対する賞与と認めるのが相当である。
三、被告に、その後原告の本件事業年度における所得金額について再検討をしたところ、原告が役員賞与金二八万円を損金に計上していたもののうち、金一八万円を損金から除算していなかつたことが判明したので、これを損金から除算し、原告の本件事業年度における所得金額を金五、四〇三、一〇一円と再更正し、昭和四四年五月二九日付で原告に通知した。
四、以上のとおり被告のした更正処分および過少申告加算税の賦課決定ならびに再更正処分には何ら違法はない。
第五被告の主張に対する原告の答弁および反論
(本案前の主張について)
再更正処分は、所得金額の増加部分についてのみ効力を有するものであり、その余の部分については更正処分の効力が存続しているものと解すべきであるから、再更正処分がなされた後であつても更正処分の取消しを求める訴えは適法である。
(本案の主張について)
一、被告主張の第一項中、原告が本件事業年度の所得計算をするに際し、仕入れ、運搬費その他の経費等を誤つて計上したこと、役員に支給した金三六〇万円を損金に計上したことを認める。役員に支給した右の金員は、役員賞与ではなく、役員報酬として支給したものであるから、原告の本件事業年度の所得計算上損金に算入されるべきである。
二1 同第二項1を争う。商法上、役員報酬とは、役員が行なう経営活動の対価として会社から受ける給付であつて、法律上会社にその支払いを義務づけているのであるから、当然会社の事業遂行に必要な経費であり、これに対し、役員賞与とは、役員が企業の利益をあげた功労に報いるため利益金から支給されるものである。税法上の役員報酬と役員賞与との区別も商法上の概念を基にして判断すべきであり、そして、商法上の役員報酬が会社の経費たる性質を有するため、税法上も損金性が認められるが、役員賞与は、商法上利益金の処分であるから、税法上も損金性が認められないのである。したがつて、法人税法第三四条、第三五条の解釈も、右の趣旨に従い、当該支出が会社の経賞たる性質を有するか否かにより実質的に判断すべきであつて、単に定期の給与か臨時の給与かにより形式的に判断すべきではない。
2 同項2の冒頭のうち、原告が被告主張の日時に役員六名に対し各金六〇万円合計金三六〇万円を支給したことを認め、その余を争う。
(一) 同項2の(一)の事実を認める。
(二) 同項2の(二)を争う。税法上、定期的な給与のみを役員報酬であると解するにしても、原告会社の常勤役員四名は、役員の職務のほか使用人的業務も担当しているので、毎月給料の支給を受けているが、これは使用人としての職務に対する給与であつて、役員報酬ではない。役員報酬たる性質を有するのは、各役員に支給した金六〇万円だけであり、これは、毎年決算期に一人当り金六〇万円ずつ支給する旨の株主総会の決議に基づくものであるから、これを定期的な給与と解すべきである。
(三) 同項2の(三)のうち、非常勤役員には、定期の給与が支給されていないことを認め、その余を争う。非常勤役員についても、常勤役員と同様に、毎年決算期において一人当り金六〇万円ずつ支給する旨の株主総会の決議に基づいて支給したものであるから、右給付金も役員報酬に該当する。
(四) 同項2の(四)のうち、役員報酬を手形で支給し、その後各役員から、被告主帳のとおり借り入れたことを認め、その余の事実を否認する。原告は、昭和四二年三月二一日開催の臨時株主総会において、年額金七二〇万円以内で役員報酬を支出すること、その配分および支払方法については代表取締役に一任する旨の決議をし、同日、引続き開催された取締役会において、常勤役員に対し、給料のほか一人当り年額金六〇万円を、非常勤役員についても一人当り年額金六〇万円を、役員報酬として支給する旨の決議をし、その支払方法については代表取締役に一任した。本件の役員報酬は、右の各決議に基づいて支給されたものであり、その支払いを手形でしたのは、原告の資金繰りの関係上現金で支給することができなかつたためであり、また、いつたん支給した役員報酬を借り入れたのは、従業員に対する給料の支払い等の運転資金を必要としたからであつて、決して臨時的な給与として支給したものではない。
三、同第三項のうち、被告が、原告の本件事業年度における所得金額について、被告主張のとおり再更正処分をしたことを認める。しかしながら、前述のとおり、原告が役員六名に対し支給した金二六〇万円は、役員報酬であるから損金に算入すべきであり、したがつて、再更正処分時における原告の本件事業年度の所得金額は金一、八〇三、一〇一円であるから、これを超える被告の再更正処分は違法である。
第六証拠関係
原告訴訟代理人は、甲第一ないし第三号証、第四号証の一ないし三を提出し、証人横井隆夫の証言を援用し、乙第一号証の一ないし四の成立を認める、その余の乙号各証の成立は不知、と述べた。
被告指定代理人は、乙第一号証の一ないし四、第二ないし第五号証を提出し、証人黒森正憲の証言を援用し、甲第三号証の成立を認める、その余の甲号各証の成立は不知、と述べた。
理由
(本案前の申立てに対する判断)
一、原告は、本位的申立てとして、更正処分の取消しを求めているので、その適否について判断する。
ところで、更正処分がなされた後に、再更正処分がなされた場合、両者の関係をいかに見るべきかについては見解が分れている。しかし、小くとも増額更正をする場合においては、両処分は、日時を異にする別個の処分であるけれども、いずれもすでに観念的、客観的に成立している一個の祖税を正当な数額に何体化するための行為であつて、再更正処分は、当初の更正処分をそのままとし、脱漏した部分だけを追加するものではなく、再調査により判明した結果に基づいて当初更正した課税標準等をも含めて全体としての課税標準等を確定する処分であり、したがつて、再更正処分がなされると、当初の更正処分は、再更正処分に吸収されて一体的となり、独立の存在を失うものと解すべきである。そしてこの見解に立つた場合、再更正処分の取消訴訟において、再更正処分による増額分のみならず、申告額を超える部分のすべてについてその手続上および内容上のかしについて争うことができることとなるから、納税者の救済として十分であるうえ、対象たる処分が一個となることによる簡明直截化の利益もあるから、実質的にみても妥当である。したがつて、再更正処分のなされたのちにおける更正処分の取消しを求める訴えは、不適法であつて却下を免れない。
二、次に、再更正処分の取消しを求める申立ての適否について判断する。
原告が再更正処分の取消しを求めるに先立ち、所定の不服申立てを経由していないことは当事者間に争いがないが、本件のような場合、再更正処分の取消訴訟を提起するために不服申立ての前置を必要とするか否かについて検討する。国税通則法第八七条第一項には、国税に関する法律に基づく処分で不服申立てをすることができるものの取消しを求める訴えは、不服申立てを経た後でなければ、提起することができない旨規定されているが、そのただし書には例外規定があり、その第三号には「更正決定等の取消しを求める訴えを提起した者が、その訴訟の係属している間に当該更正定等に係る国税の課税標準等又は税額等についてなされた他の更正決定等の取消しを求めようとするとき。」と規定されている。右の規定は、更正決定等の取消しを求める訴えを提起した場合で、その訴訟係属中、これと密接な関連を有する他の更正決定等がなされた場合に関するものであるが、その趣旨は、一の国税にかかる数個の更正処分について、同一裁判所で同時に審理することにより紛争を矛盾なく迅束に解決させるためであり、また、すでに更正処分について不服申立てを経ている以上、再更正処分について不服申立てがなされても、更正処分に対する不服申立てについて示された判断と異なる判断がなされる可能性は極めて少ないから、改めて再更正処分について不服申立てをさせる実益が乏しいのである。
本件のように、更正処分についての取消訴訟を提起する前にすでに再更正処分がなされていて、しかも更正処分について不服申立てを経ている場合は、右の規定に文理上含まれないが、あらためて不服申立手続をふませる実質的理由を欠くことは、右の説示により明らかであるから、同項第四号後段の「その他その決定又は裁決を経ないことにつき正当な理由があるとき」に該当すると解すべきであり、したがつて、原告の再更正処分の取消しを求める申立ては適法である。
(本案の申立てに対する判断)
一、原告は、砂利、玉石等の採取および阪売を業とするものであるが、昭和四三年五月三一日、被告に対し、本件事業年度の法人税について所得金額を金五三六、五四五円として確定申告書を提出したところ、被告は、同年一〇月三一日付で原告の本件事業年度の法人税につき、所得金額を金五、二二三、一〇一円、法人税額を金一、六一八、〇〇〇円と更正したうえ、過少申告加算税金三五、八〇〇円の賦課決定をしたこと、そこで、原告は、同年一一月二九日、被告に対し、右各処分につき異議の申立てをしたが、昭和四四年二月二四日付でこれが棄却されたので、さらに、同月一七日、仙台国税局長に審査請求をしたが、右請求も棄却され、同年五月二二日付でその旨原告に通知されたこと、被告は、同年五月二九日付で原告の本件事業年度における所得金額を金五、四〇三、一〇一円、これに対する法人税額を金一、六八一、〇〇〇円とする再更正処分をし、そのころ、その旨を原告に通知したことは、当事者間に争いがない。
二、そこで、被告の更正処分および再更正処分の適法性について判断する。
1 まず、役員報酬および役員賞与の意識について検討する。
(一) 商法上取締役の報酬ないし賞与については、商法第二六九条(監査役については同法第二八〇条でこれを準用している)の規定が存するだけであり、それも定款または株主総会でその額を定めなければならない旨の手続的規制を加えているだけであるが、一般には、役員報酬とは、役員の職務執行の対価として利益の有無にかかわらず支給されるものをいい、役員賞与とは、企業の利益をあげた特別の功労に報いるため、利益の存するときにのみ利益の中から支給されるものをいうと解されている。一方、法人税法は、その第三四条第二項において、役員報酬とは、役員に対する給与(債務の免除による利益その他の経済的な利益を含む。)のうち、賞与および退職給与以外のものをいう旨規定し、その第三五条第四項において、役員賞与とは、「役員または使用人に対する臨時的な給与(債務の免除による利益その他の経済的な利益を含む。)のうち、他に定期の給与を受けていない者に対し継続して毎年所定の時期に定額(利益に一定の割合を乗ずる方法により算定されることになつているものを除く、)を支給する旨の定めに基づいて支給されるもの及び退職給与以外のものをいう。」と規定している。
(二) したがつて、法人税法上、役員給与には、債務免除等経済的な利益の供与による実質的な給与も含まれるが、それが報酬となるか賞与となるかは、法人の事業のため必要経費であるかどうかは考慮せずに、定期的な給与(ただし、この場合でも役員の職務の対価として相当であると認められる金額をこえる部分は、法人の所得計算上損金に算入されない(同法第三四条第一項)。)か、臨時的な給与かによつて判定されるのであつて、法人の利益処分のみを賞与とする商法の考え方は一致しない。法人税法が、商法上の考え方を採用せず、右のような規定を設けたのは、国家の財政収入の確保のほか、主として同族会社とその他の公開会社との間における課税負担の公平を図るためである。すなわち、同族会社は、取締役と株主とが多くの場合一致するが、この場合、株主に対する利益配当として支出すると益金として課税所得に算入されるのに対し、同じ支出を株主総会の承認を得て取締役の報酬として支出すると損金と認められて課税の対象とはならない。したがつて、極端な場合、同族会社がまつたく利憲配当をせずに報酬として支出することさえ考えられるが、それでは他の公開会社との間に不公平が生ずることになるので、これを防止するため、前記のような明文の規定を設けたのであるから、必ずしも商法上の立場と同一に解する必要はない。そうだとすると、法人の役員に対する臨時的な給与のうち、他に定期の給与を受けていない者に対し、継続して毎年所定の時期に定額を支給する旨の定めに基づいて支給するものおよび退職給与以外のものは、それが利益処分として支出されたか否かを問わず、また、株主総会の承認の有無にも関係なく、すべて賞与となるのであるから、たとえ株主総会で定めた報酬支給総額の範囲内の支出であつても、臨時に支出したものは損金に算入しない趣旨と解すべきである。なお、ここでいう定期の給与とは、あらかじめ定められた支給基準に基づいて、毎日、毎週、毎月のように月以下の期間を単位として規則的に反覆または継続して支給されるものと解すべきである。
2 ところで、被告は、原告が役員賞与を損金に計上して、所得金額を過少に申告している旨主張するので検討する。
(一) 原告会社では、役員として代表取締役桜井隆真、専務取締役横井隆夫、取締役江口淳、同松本邦夫、同横井晴子および監査役江口箕知子の六名が選任されていること、右のうち横井隆真、横井隆夫、横井晴子および江口箕知子の四名は常勤であり、江口淳および松本邦夫の両名は非常勤であること、以上六名の役員中本件事業年度の中途において退職したものがないことについて当事者間に争いがない。
なお、証人横井隆夫の証言によると、原告会社は、資本金二五〇万円(発行済株式五、〇〇〇株)の株式会社であるが、専務取締役横井隆夫は代表取締役横井隆真の長男であり、常勤取締役横井晴子は右横井隆夫の妻であるところ、横井隆真の持株が一、二〇〇株(六〇万円)、横井隆夫のそれが一、〇〇〇株(五〇万円)、横井晴子のそれが五〇〇株(二五万円)であつて、右三名の持株合計が発行済株式総数の五〇%以上を占める同族会社であることが認められる。したがつて、代表取締役横井隆真および専務取締役横井隆夫は法人税法施行令第七一条第一号に、監査役江口箕知子は同条第三号に、常勤取締役横井晴子は同条第四号に各該当するので、いずれも使用人兼務役員とはなり得ない(同法第三五条第五項)。
(二) 成立に争いのない甲第三号証、乙第一号証の二、三、証人黒森正憲の証言により成立の認められる乙第二号証、証人横井隆夫、同黒森正憲の各証言および弁論の全趣旨を総合すると、次の事実が認められる。
(1) 被告は、原告から提出された確定申告書によると、原告の本件事業年度の所得金額が、他の同業者のそれよりも少なかつたので、昭和四三年九月初ごろから同年一〇月初めごろにかけて、原告の所得金額を調査した。その結果、原告は、仕入れ、運搬費等の架空計上および売上げの計上もれ等不正に所得計算をしていたほか、昭和四三年三月三一日、役員六名に対し、各金六〇万円合計金三六〇万円を、別表(二)記載の約束手形一二通を振り出して支払い、これを役員報酬として損金に計上し、しかもそのうち六通については支払期日後間もなくこれを借り入れていることが判明した(原告の会計処理については当事者間に争いがない。)。そこで、被告は、原告に対し、別表(一)記載の各項目につき、損金に算入することは認められないから、修正申告するように説明し、もし、これに応じないときは更正する旨伝えたところ、原告は、所得計算について再検討をしたので、更正するのを猶予して欲しい旨申し立て、その後、役員報酬を除いたその他の項目については、被告から指摘きれたとおり修正申告をしたが、役員報酬については、株主総会の決議を得ており、議事録も作成されているので、所得計算上損金に算入されるべきであると主張し、被告の指示に従わなかつた。
(2) 原告の主張する右株主総会は、昭和四二年三月二一日開催されたことになつており、その決議の内容は、昭和四二年度以降役員報酬を年額金七二〇万円以内で支給することとし、その配分および支給方法については議長に一任するというものであるけれども、被告が前記の原告の所得金額を調査した際、原告に対し議事録の提出方を求めたが、原告は、そのころ、右株主総会を開催しておらず、したがつて、議事録も作成されていなかつたので、これに応ずることができなかった。(原告は、本件事業年度内において、営業成績が順調に伸び、本件事業年度の決算において相当の営業利益を計上しなければならない見通しか立つに至り、その調整を図ろうと考え、各役員に報酬を支払う方法をとつたが、被告から調査を受けるに及び、損金算入を否認される状勢となつたので、本件事業年度開始前に株主総会を開催したかのように装い、その旨の議事録(甲第一号証)を作成したものと推認される。)
(3) 原告は、役員報酬につき、定款に規定せず、株主総会においてもとくに決議したことはなかつたが、本件事業年度において、常勤役員のうち、代表取締役横井隆真および専務取締役横井隆夫に対し、それぞれ月五万円を、取締役横井晴子には月一万八、〇〇円を、監査役江口箕知子には月二万二、〇〇〇円を、いずれも従業員に対する給料の支給と同時に支給し、その会計処理については従業員に対する給料手当と一括して費用に計上していたが、非常勤である取締役松本邦夫および同江口淳については定期の給与を支給しておらず、また、毎年一定の時期に定額を支給する旨の定めをしていない。
証人横井隆夫の証言中、右認定に反する部分は措信できず、甲第一、二号証の議事録も内容虚偽のものであるから右認定の妨げとはならないし、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。
以上(一)、(二)で認定した各事実によれば、原告の各役員に対する給与の支給中、定期の給与の支給に相当するものは常勤役員四名に毎月支給する部分だけであり、非常勤役員は定期の給与を受けていないから、これに対する給与が役員報酬となるためには、継続して毎年所定の時期に定額を支給する旨の定めに基づいて支給するものではなければならないが、本件はそのような定めがないから、役員報酬に相当するものがないのであり、結局、原告が昭和四三年三月三一日、各役員六名に支給 した合計金三六〇万円は、その支払時期および態様からして臨時の給与と認めるのが相当であり、したがつて、法人税法上役員賞与に該当し、損金計上は許されないといわなければならない。
3 以上のとおり、原告の本件事業年度の所得金額は、金五、二二三、一〇一円であり、これに対する税率は年金三〇〇万円以下の金額については一〇〇分の二八、これを超える部分の金額については一〇〇分の三五である(法人税法第六六条第一、二項)から、これを所得金額に乗じて算出すると、法人税額は金一、六一八、〇〇〇円となる。
4 さらに、被告が原告の本件事業年度における所得金額に再検討を加えたところ、役員賞与金二八万円を損金に計上していたもののうち、金一〇万円についてのみ損金から除算し、金一八万円については損金から除算していなかつたことが判明したので、これを損金から除算したが、そのことについて原告は明らかに争わないから自白したものとみなされる。そうだとすると、原告の本件事業年度における所得金額は金五、四〇三、一〇一円となり、これに対し前起税率を乗じて法人税額を算出すると、その額は金一、六八一、〇〇〇円となる。
三、次に、過少申告加算税について検討する。
国税通則法第六五条によると、期限内申告書が提出された場合において、更正があつたときは、当該納税者に対し、更正に基づき納付すべき税額に一〇〇分の五の割合を乗じて計算した金額に相当する過少申告加算税を課されるが、この場合、納税者がその国税の課税標準等または税額等の計算の基礎となるべき事実の全部または一部を隠ぺいまたは仮装し、その隠ぺいけたは仮装したところに基づき納税申告書を提出したときは、当該納税者に対し、過少申告加算税の額の基礎となるべき税額にかかる過少申告加算税に代え、当該基礎となるべき税額に一〇〇分の三〇の割合を乗じて計算した金額に相当する重加算税が課される(同法第六八条第一項)。
ところで、原告が本件事業年度の所得金額を金五三六、五四五円として確定申告をしたところ、被告がその所得金額を金五、二二三、一〇一円と更正したことは前記のとおりであり、そして、右更正額中、隠ぺいまたは仮装部分に相当するのは、別表(一)の2ないし4記載の金二、三八一、八七六円であるが、別表(一)の9記載のとおり、仕入額の計上もれ額が金二三五、〇七五円あるので、これを控除した金二、一四六、八〇〇円が重加算税の課税対象となる。
そこでこれを計算すると、過少申告加算税は金三五、八〇〇円、重加算税は金二二五、三〇〇円となるが、その算式は次のとおりである。(法人税の税率については法人税法第六六条第一、二項を、端数の切り捨てについては国税通則法第九〇条、第九一条を、各適用する。)
過少申告加算税の対象となる課税標準額
¥5,223,101-¥536,545=¥4,686,556
過少申告加算税額の基礎となる税額
¥689,600+¥778,000=1,467,600
重加算額の計算の基礎となるべき税額
重加算税部分を除いた過少申告加算税の計算の基礎となるべき税額
¥1,467,600-¥751,100=¥716,600
(結論)
以上説示のとおり、原告の本件事業年度における所得額は金五、四〇三、一〇一円であつて、これに対する法人税は金一、六八一、〇〇〇円であり、また、過少申告加算税は金三五、八〇〇円、重加算税は金二二五、三〇〇円であるから、被告のした本件各処分は適法であり、したがつて、原告の本位的請求中の過少申告加算税の賦課決定処分の取消しを求める部分および予備的請求はいずれも理由がないからこれを棄却し、本位的請求中更正処分の取消しを求める部分は不適法であるからこれを却下することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 丹野達 裁判官 三井善見 裁判官 新田誠志)
別表(一)
<省略>
別表(二)
<省略>